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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)2001号 判決

原告

田中夏樹

第一事件被告

塚島剛

ほか一名

第二事件被告

東京海上火災保険株式会社

主文

一  第二事件被告は、原告に対し、一五八九万九一六七円及びこれに対する平成五年九月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の第二事件被告に対するその余の請求及び第一事件被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と第一事件被告らとの関係で生じた費用は、原告の負担とし、原告と第二事件被告との関係で生じた費用は、第二事件被告の負担とする。

四  本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

(第一事件)

第一事件被告らは、連帯して原告に対し、一六〇〇万円及びこれに対する平成五年九月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(第二事件)

第二事件被告は、原告に対し、一六〇〇万円及びこれに対する平成五年九月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、交差点を南から北へ直進した事故車〈1〉と西から東へ直進した事故車〈2〉とが衝突し、事故車〈1〉に同乗していた女性が死亡した事故に関し、その遺族が、事故車〈2〉の運転者及び保有者を相手に、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を求め(第一事件)、また、事故車〈1〉の自賠責保険会社を相手に同法一六条一項に基づく被害者請求をし(第二事件)、提訴した事案である。

一  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は、争いのない事実である。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成四年三月二三日午前〇時三〇分ころ

(二) 場所 奈良県北葛城郡広陵町大原南四六番地先交差点(以下「本件事故現場」ないし「本件交差点」という。)

(三) 事故車〈1〉 訴外田中稔(以下「田中」という。)が保有し、かつ、運転していた普通乗用自動車(奈良五八ひ九七〇八、以下「田中車」という。)

(四) 事故車〈2〉 被告国土建設株式会社(以下「被告国土建設」という。)が保有し、同塚島剛(以下「被告塚島」という。)が運転していた普通乗用自動車(なにわ五六と一八四四、以下「塚島車」という。)

(五) 被害者 田中車に同乗していた訴外亡金谷友子(以下「友子」という。)

(六) 事故態様 本件交差点において、東進した塚島車と北進した田中車とが出会頭に衝突し、友子が死亡したもの

2  責任原因

(一) 第一事件被告らの責任

被告国土建設は、被告車の保有者であり、その運行に用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、また、同塚島は、右方の安全を確認しないまま、制限速度を超える速度で本件交差点に進入したものであるから、民法七〇九条に基づき、それぞれ本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 第二事件被告の責任

田中は、田中車の保有者であり、自賠法三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任があるところ、同車に関し、田中と被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)との間で自賠責責任保険契約が締結されていた。

3  身分関係及び相続

田中と友子は、本件事故当時、内縁関係にあり、原告は、友子の養子であり、本件事故により友子に生じた損害賠償請求権を相続により承継取得した。

4  損益相殺

本件事故により生じた損害に関し、塚島車に関する自賠責保険(住友海上)から二〇七五万五六八〇円の支払いがなされた。

二  争点

1  過失相殺

(被告塚島・同国土建設の主張)

田中は、本件交差点に進入するに際し、対面信号が赤点滅を表示していたのであるから、同交差点手前で一時停止し、安全を確認しなければならないのに、これを怠り、飲酒の上、制限速度を超過し、時速四〇キロメートルないし五〇キロメートルの速度で同交差点に進入した過失があるから、田中と被告塚島との過失割合は、八対二と認めるのが相当である。

友子は、田中の内縁の妻であるから、右身分関係・生活関係に照らし、田中の過失はいわゆる被害者側の過失となり、過失相殺により、本件事故により友子に生じた損害から八割を減額すべきである。

(被告保険会社の主張)

田中は、友子の内縁の夫であり、原告は、両名の養子という身分関係があるのであるから、原告が田中車の自賠責保険会社である被告保険会社に対し請求する場合であつても、田中の過失は損害賠償額を定めるに当たり、斟酌されるべきである。

2  その他損害額全般

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  甲第六ないし第一三、第一七ないし第一九、第二一、第二三ないし第二五号証によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、別紙図面のとおり、市街地にある南北に通じる道路(幅員約四・八ないし約六メートル、以下「南北道路」という。)と東西に通じる片側幅員約三メートルの道路(以下「東西道路」という。)との交差点にある。東西道路の制限速度は時速五〇キロメートルに規制され、両道路とも路面は平坦であり、アスフアルトで舗装され、本件事故当時乾燥しており、両道路相互の見通しは悪かつた。本件事故当時、本件交差点において、南北道路に関する信号は赤色の灯火を点滅させ、東西道路に関する信号は黄色の灯火を点滅させていた。

田中は、平成四年三月二二日午後七時過ぎから内縁の妻である友子らと共に、寿司屋、料理屋でビール、日本酒を飲酒の上、田中車を運転し、翌二三日午前〇時三〇分ころ、南北道路を北進中、本件交差点に差しかかつた。田中は、同交差点手前で一時停止をすることなく、漫然、同交差点に進入したところ、東西道路を時速約六〇キロメートルの速度で東進し、同交差点に進入して来た被告塚島運転の塚島車の前部と田中車の左側面とが出会頭に衝突し、田中車に同乗していた友子が死亡した。

2  当裁判所の判断

(一) 友子と第一事件被告らとの関係について

右認定事実をもとに、両者の過失を対比すると、田中には、対面の信号機が赤色の灯火を点滅させていたのであるから、同交差点の手前で一時停止し、左右道路の交通の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と同交差点に進入した過失がある。他方、被告塚島には、対面の信号機が黄色の灯火を点滅させていたのであるから、徐行しつつ同交差点に進入すべき注意義務があるのに、制限速度を約一〇キロメートル超過する時速約六〇キロメートルの速度で同交差点に進入した過失がある。

両者の過失を比較すると、田中の過失がより重大であり、本件事故の発生に関し、少なくとも七割の過失があるというべきである。

もつとも、友子は、田中車の同乗者ではあるが、田中と友子とが本件事故当時内縁関係にあつたことは当事者間に争いがないから、第一事件被告らとの関係において、田中と友子とは、被害者側として身分上・生活関係上一体の関係にあるというべきであり、後記本件事故により生じた損害から同割合を減額すべきである。

(二) 友子と第二事件被告(ないし田中)との関係について

なお、被告保険会社は、自ら(ないし田中)との関係でも、田中の過失割合による過失相殺がなされるべき旨主張するが、友子にとつて田中は加害者そのものに他ならないから、田中の過失をもつて友子の過失として評価すべきとする右主張は失当という他はなく、到底採用できない。

もつとも、前記認定事実によれば、本件事故に関する田中の前方不注視には、飲酒が影響を及ぼしていた蓋然性が高いと推認されること、友子は、田中が飲酒の上田中車を運転していることは承知の上、同車に同乗していたことが認められ、田中が運転することによる交通事故発生の危険を予見し得る状態のもとに同乗していたものと認められる。かかる場合、友子に生じた全損害を田中に負担させるのは損害の公平の理念に照らし、相当ではない。したがつて、田中車の保険会社である被告保険会社との関係においても、過失相殺の規定を類推し、本件事故により生じた損害からその二割を減額するのが相当である。

二  損害

1  友子に生じた損害

(一) 逸失利益(主張額二二八一万四八七九円)

甲第五、第一三号証によれば、友子は、昭和一五年一一月二日に生まれ、死亡当時、五一歳であり、家事労働に従事する主婦であつたことが認められるところ、本件事故の年である平成四年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の五〇歳から五四歳までの平均賃金が三二九万六一〇〇円であることは当裁判所にとつて顕著な事実であり、同女の年収は同額を下まわらないものと解するのが相当である。

弁論の全趣旨によれば、同女は、満六七歳までは稼働可能と認められ、生活費控除は四割とみるのが相当であるから、ホフマン方式(一六年の係数)を採用して同女の本件事故当時の逸失利益を算定すると、次の算式のとおり、二二八一万四八七九円となる(一円未満切り捨て、以下同じ。)。

3,296,100×(1-0.4)×11.5363=22,814,879

(二) 死亡慰謝料(主張額二〇〇〇万円)

本件事故の態様、友子の受傷内容と死亡に至る経過、職業、年齢及び家庭環境等、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、二〇〇〇万円が相当と認められる。

(三) 治療費(主張額五万三六八〇円)

甲第四号証によれば、友子は、本件事故による治療費として五万三六八〇円を負担したことが認められる。

(四) 小計

以上の損害を合計すると、四二八六万八五五九円となる。

2  相続及び葬儀関係費用(主張額二三二万五〇〇〇円)

(一) 原告は、友子の養子であり、本件事故により友子に生じた損害賠償請求権を相続により承継取得したことは当事者間に争いがないから、原告は、前記友子に生じた四二八六万八五五九円の損害賠償請求権を相続により取得したことになる。

(二) 弁論の全趣旨によれば、原告は、葬儀費用及び墓石建立費・墓地購入費等の葬儀関係費用を負担したことが認められるところ、右費用のうち、本件事故と相当因果関係のある費用としては、一二〇万円が相当(前記相続した分と合せ、合計四四〇六万八五五九円となる。)と認められる。

なお、原告は、葬儀費用として一二〇万円の他、墓石建立費・墓地購入費等として一一二万五〇〇〇円の損害が生じたと主張する。しかし、墓石建立費等の中には友子以外の他の死者の供養にも役立ち得る費用が含まれているものと考えられるから、その全額を加害者に負担させるのは相当ではない。したがつて、墓石建立費等の支出を考慮しても、本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費用としては一二〇万円と認めるのが相当である。

三  過失相殺、好意同乗減額、相続・損益相殺及び弁護士費用

1  前記認定のとおり、過失相殺ないしその類推(好意同乗減額)により、本件事故により生じた損害から、第一事件被告らとの関係では七割を、第二事件被告との関係では二割を減額するのが相当である。

したがつて、右減額後の損害は、第一事件被告らとの関係では、一三二二万〇五六七円、第二事件被告との関係では、三五二五万四八四七円となる。

2  本件事故により生じた損害に関し、二〇七五万五六八〇円が支払われたことは当事者間に争いがないから、前記損害残額から同額を控除すると、第一事件被告らとの関係では残額が存しないこととなり、第二事件被告との関係では残額が一四四九万九一六七円となる。

4  本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、第二事件被告との関係で一四〇万円が相当と認める。

前記第二事件被告との関係での損害合計一四四九万九一六七円に右弁護士費用を加えると、同被告が負担すべき損害合計は一五八九万九一六七円となる。

四  まとめ

以上の次第で、第二事件被告に対し一五八九万九一六七円及びこれに対する平成五年九月一日(甲第四七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、第二事件被告に対し、自賠責保険金の支払請求をしたところ、平成五年八月二三日ころ、同被告は、支払いに応じかねる旨の回答をなしたことが認められるから、遅くとも、原告主張にかかる同年九月一日には、同被告の債務は履行遅滞に陥つたものと認められる。)から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求及び第一事件被告らに対する請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、前記結論、認容額と請求との関係、その他本件における真理経過等を考慮し、主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

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